新婚恐山

新婚恐山

やれやれ妻のキャラ設定がぶじ終わったので、次はその妻との間に産まれた一粒種、愛息のキャラ設定を行うとしましょうかね。

あれはそう、なんだっけ、今から3年ほど前の夏だったでしょうか。グロブスターの化身と思われるなぞ多き女グロヴィーヌと異類婚した僕は彼女と二泊三日の新婚旅行に出かけました。場所は若者に人気の避暑地、青森の恐山です。青森といえば門付芸能界の花形、瞽女を排出してきた土地でもあり、僕たち夫婦の旅行先としては最適のように思われました。

恐山に到着した僕たちは、宿坊にチェックインするなり荷ほどきももどかしくすぐ外へ飛び出し、周辺の観光を始めました。

「あそこに赤い橋がかかっているだろう? あの川が名高き三途の川だよ!」

「アラ、あの荒涼とした風景をご覧になって! 風に吹かれていくつもの風車がカラカラ回っているわ!」

「今度はあれを見なよ、血の池地獄ときたもんだ」

「ワインレッドでロマンチック!」

「お次はあれを見て、極楽浜!」

「まるで西方浄土に来たみたい。わたしもう成仏しちゃいそう!」

などと、新婚旅行ならではのハイテンションで避暑地・恐山を散策した我々は、続いてご当地名物のイタコの口寄せを体験してみることにしました。順番が来ると、僕たちはイタコの待つ部屋に招き入れられ、誰を冥界から呼び出すのか尋ねられました。

「僕たちは新婚なんですが、いつごろ子宝に恵まれるのか知りたいので、子宝に詳しい子だくさんな人の霊を降霊してください」

「だば、具体的に言ってけろ」

「では薬丸裕英で」

愛想のないイタコは返事もせずに数珠をじゃらじゃらと手の内で転がしながら念仏を唱えるとすぐさまトランス状態となり、背中を丸めてうめき始めました。

「お……おおお……」

「アラ、さっそく薬丸さんが降りてきたのかしら?」

「あっという間に降りてきたね。『はなまるマーケット』も終わってきっとヒマなのだろう。ははは」

「……おっそろしいなあー」

「えっ、なんですって?」

「おーーい、高いなあー!」

「なんだか言ってることがおかしいな。薬丸さん? あなた薬丸さんじゃないの?」

「これ、アダムスキーの金星文字に……似てないかあー」

「えっ? なんだって?」

「ヒモロギさん、なんだか怖いわ……」

およそ薬丸とは思えない異常な殺気を発し始めたイタコに相対し、グロヴィーヌも先ほどまでとは打って変わって不安げな表情です。

「若者よ……危機センサーを……研ぎすませ……」

「あっ! あなたはもしや……」

僕は顔面蒼白となり、ガタガタと歯が鳴るのが自分でもわかるくらい震えだしました。事の重大さがまだわからないグロヴィーヌはきょとんとした顔で僕とイタコを交互に見比べています。

「ヒモロギさん、どうかなさって?」

「た、大変な方が降りてこられた……なんということだ……」

「ヒモロギさん? しっかりして、いったい何が起きているの?」

「これは……ロッキード事件以来の大事件だーーッ!」

(一向に息子が出てこないがつづく)