藤岡権現のお告げ

藤岡権現のお告げ

(前回までのあらすじ) 息子のキャラ設定を行なっているはずなのに、息子がいっこうに出てこない。

「あなたはもしや、かつて『藤岡弘、探検隊』を率いて地球上のあらゆる謎に立ち向かった伝説の探検隊長、藤岡弘、さんではありませんかッ!?」

「そうだ」

「や、やはりそうでしたか」

「あくまでも仮説だけどな」

「あっ、はい」

「外へ出ちまったなあー」

「あっ、はい。ところで隊長……なぜこんな民間の巫術師ふぜいにわざわざ降霊なされたのですか。私はてっきり、イタコがおろせるのは薬丸レベルがせいぜいと思っていたのですが……」

「水ないのかよ」

「あっ、はい、どうぞ。イタコの飲みさしの『いろはす』ですが」

「……これ、アダムスキーの金星文字に……似てないか?」

「え、『いろはす』がですか? どこが? というかさっきもそれ言いましたが……」

「はいおわり。次の人ー」

「……あれっ、いつの間にかイタコの婆に戻っている……だと!?」

われわれ夫妻は狐につままれたような心持ちとなり、地に足もつかないような足取りで極楽浜へと戻ってきました。

「さっきのはなんだったのかしら」

「なにって、まぎれもなく藤岡弘、隊長だよ。感動したね」

「それはそうなのかもしれないけれど……私たちが知りたかったのは子宝に恵まれるかどうかよ。隊長と子宝はまるで関係がないわ」

「いいかいグロヴィーヌ、よく考えてみることさ。僕たちが口寄せを頼んだイタコはイタコ業界の中でも安定した技術で有名な人物、サッカー選手でいったら遠藤保仁選手のようなプレイヤーだよ。その彼女の仕事に事故やデタラメがあるとは考えにくいな」

「藤岡弘、隊長が私たちの子供についてお告げをしてくれたということ? でも、隊長の言っていることはあまりに支離滅裂で、まるで解釈のしようがないわ」

「いや、日本唯一の藤岡弘、探検隊評論家である僕にはわかる。彼の言葉の出典はすべて、2003年10月1日に放映された『藤岡弘、探検シリーズ第3弾 南米ギアナ高地切り裂かれた大地の闇に謎の地底人クルピラは実在した!!』からのものだ。なぞを解く鍵はそこにあるはずだ」

僕がパイプに火を付け、やがて瞑目し思索を巡らし始めたのを見ると、グロヴィーヌはやれやれまたかといった様子で肩をすくめて浜辺に座り込み、そうして僕たちは極楽浜でしばし静謐な時間を過ごしたのでした。

妻から懐妊を知らされたのはそれから2ヶ月ほど経ってからのことでした。遡って考えてみると、どうやら恐山滞在中に授かった子供のようで、「きっと藤岡隊長が授けてくれたのよ」と無邪気に微笑む妻に対して曖昧に頷きながら、僕はまだ全ての謎が解けずにいました。藤岡隊長は金剛蔵王権現の垂迹した姿として世に知られているが、果たして蔵王権現に子授けの利益などあっただろうか……藤岡蔵王権現がイタコの身体を借りて顕現したのはもっと別の理由があってのことではないだろうか……そんなことをぼんやりと考えながら産婦人科の一室で4D胎児エコー画像を見た僕は驚愕しました。

「緑……だと!?」

そうなのです。この4D胎児エコーという代物は胎内の胎児の動きをリアルタイムに描写するものであり、従来のエコー写真とは異なり色も描出されるのですが、モニタに映し出された胎児は全身が緑がかった色だったのです。

これで全てのなぞが解けました。あの時、藤岡弘、隊長は僕たちに子どもを授けに来たわけではなかったのだ! 僕の子どもとして転生するべく恐山上空を浮遊していたUMAの霊を追っていたのだ!

「すべてのピースが繋がったぞ! あの時の隊長の台詞は、すべて第三次探検の時のもの、そしてその時のターゲットは緑色の肌を持つペトラピンターダの地底人、探検隊があと一歩のところで捕獲することが出来なかった藤岡隊長の好敵手『クルピラ』だ! つまりグロヴィーヌ、君のお腹の中にいるのは地底人クルピラだ!」

産婦人科の一室で意味不明とも取られるうわ言を興奮してまくし立てた僕は錯乱したと見なされ、すぐに周囲の看護師に押さえつけられ、『カッコーの巣の中で』ライクに鎮静剤をブスブス打たれ意識をなくしました。薄れゆく意識の中で、ペトラピンダータの密林を後ろ向きに駆けていく緑色のクルピラの姿を、僕は見たような気がしたのです。

やがて臨月をむかえ、グロヴィーヌが出産した息子の肌はうっすら緑がかってはいましたが、その他は普通の赤ちゃんと変わるところがありませんでした。僕はこの子がクルピラの生まれ変わりであることに強い確信を抱き、それがために「ピラ助」と名付けました。その予感はいずれ現実のものとなるのですが、なんかもう満足してしまったので息子の出自設定はこのへんで終わります。

次回からは僕と妻グロヴィーヌと息子ピラ助のすこやかUMAファミリー日記を書き綴ってゆきたい。ここまで詳細に設定しておけばきっと書けるにちがいない。あくまでも仮説だけどな。