怪奇! 呪われし輸入食材

怪奇! 呪われし輸入食材

話を整理しておくと、いま僕は浜辺で助けた報恩で好みの美女に変じたグロブスターの妻、妖精クルピラが転生・垂迹した緑色の長男ピラ助、そして頭頂から角が生えた次男ヅォン助の四人で生業の門付芸をほそぼそと続けながら帝都東京の片隅でつつましく暮らしているわけです。

で、そういえば次男ヅォン助の角の縁起をまだ詳しく述べていなかったように思うのですが、あらましはこうです。

化生の妻が珍しい獣肉を食べたいというので、世界各地の輸入食材が集う麻布の日進ワールドデリカテッセンにカンガルー肉を購いにでかけました。するとふだん見なれぬカンガルー肉の隣に、さらに見なれぬ虹色の肉塊が陳列されているのに気が付きました。値札も説明札も何もなかったので店員をつかまえて訊いてみると、なんでもベトナムから輸入された巨大ヘビの肉だという。それだけでも珍しいのに、店員いわくそのヘビの頭頂には角が生えていて、現地では「呪われた竜の使い」と恐れられその肉を口にするものがなかったというではないか。僕はおおいに驚きましたね。そんなものを陳列販売する日進ワールドデリカテッセンの商魂にではありません。つまり、つまりこれは、藤岡探検隊が唯一捕獲に成功したUMA、巨大竜ヅォン・ドゥーの肉ではないのか! 興奮した僕はこの謎肉を300グラムほど購入して帰宅したのであった。

帰宅後早速調理に取り掛かろうとしたものの、しかし調理法がまるでわからない。クックパッドで「ヅォン・ドゥー」と検索してもレシピが何も出てこないので、我が家の万能調味料である蒲焼のタレをかけて焼いてみようとかとも思ったのですが、ふと冷静になってこの肉を見てみると、油膜だらけでなんだかまずそう、食ったら100%腹を下しそうなビジュアルをしており、しかも急速に肉が傷みはじめて、触れてもいないのにグズグズと肉が崩れかけている。率直に言って食べたくない。しかしそれでもなお、僕はこの肉をどげんかせんといかん。なぜならば、ヅォン・ドゥー肉を発見して浮かれるあまり、本来の目的であるカンガルー肉の購入を忘れてしまったからである。しかもニ日分の我が家の食費をこの食材につぎ込んでしまったので、我が家には他に食べられるものがないのである。

僕はふんどしを締めなおし、本棚から古今のUMA本、妖怪事典、ムーなどの文献を引っ張り出してヅォン・ドゥーもしくは巨大蛇系UMAのおいしい調理法を調べ始めました。文献をめくる僕のそばで、ぶすぶすと不穏な音を立てて崩れゆく肉塊。これはもう時間との戦いである。ページをめくる手にも力が入るヒモロギ隊員であった。……するとその時!

「うわーッ!」

突如として響きわたるヒモロギ隊員の悲鳴! 彼はいったい自宅本棚奥地で何を見つけたというのだろうか!?

(続く)