平成ジレンマ
- 2019.02.18
- シネラマ島奇談
かつて戸塚ヨットスクールといえば、お母さんが聞きわけのないお子さんを叱るときに「言うこと聞かないと戸塚ヨットスクールに連れていくわよ!」とその名をチラつかせるだけで子供がビビりまくったという昭和の最恐しつけアイコンでした。つまり民俗学的には「なまはげ」「隠れ座頭」「夜道怪」「百々爺」「ゲドガキのバケモン」などの妖怪と同列で、それはまあ大したものだったわけですが、その昭和の大妖怪が平成の現在いったいどうなっているのかを克明に映像に収めたのが本作です。
現在の戸塚ヨットスクールでは体罰は行われていないそうなのですが(戸塚校長の本意ではなく、また訓練生どうしのいじめは条件付きで許容したりしている)、それゆえなのかどうなのか、訓練生たちはなかなか更生せず、再入学を繰り返したり脱走したり自殺したり、より小賢しいやつに至ってはスクールを目の敵にする弁護団のところに逃げこんだりと、ずいぶん苦労している様子が伺えます。
同じく東海テレビ制作の『ヤクザと憲法』でも同様のことを感じたのですが、かつてどうしょうもない不良の行き着く果てであったイメージが強い暴力団や戸塚ヨットスクールみたいなところは、いまやいじめられっ子や引きこもり、ニートたちの最終ラインとしても大いに機能しているのが興味深かったです。ゆえにまあ、個人的にはスクールは必要悪と思いました。
そして何より言っておきたいのは、戸塚校長超こわい! だってさー、いつも笑顔を絶やさないのに厳しいことばっか言うんだもんこの人。『魁!!男塾』の江戸川二号生筆頭代理みたいなニコニコ顔で「体罰というのは進歩を目的とした有形力の行使です」「子供はまだ能力が低いんだから、叱ればいい、体罰を加えればいい」「人格がまだできていないから体罰して作ってやるんですよ」みたいなことをニコニコ言いはなつわけですから、ごっついのうー。映画のジャンルとしてはホラーにカテゴライズしてもよいのではないだろうか。
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