茨木童子

茨木童子

さまざまな伝承や説話、謡曲、歌舞伎などに顔を出す有名鬼。

摂津国の百姓カップルの間に子どもが生まれたのだけれど、この子どもは生まれた時点で既に歯と髪が生えそろっているという、いわゆる鬼子でした。この鬼子が恐ろしい形相でお母さんを睨んだため、恐怖のあまり母親即死。範馬勇次郎みたいなやつだ。残された父親もショックで育児を放棄し、茨木村付近に赤子を遺棄してしまいます。

その後、童子は心やさしい床屋に拾われて散髪修行に励むのですが、ある時うっかり傷つけてしまった客の出血をぬぐって舐めると彼の中で何かが覚醒。以後は血の味が忘れられず、わざとミスって血まみれにしたお客の顔を舐めまくるという極めて猟奇的な理髪スタイルを確立。もちろんそんな過激な接客業務が許されるはずもなく……まあ、いまで言ったらバイトテロみたいなもんですもんね。親方にさんざん怒られた童子は理髪師の夢を断念。ネットで炎上し自分の名前が晒されたせいで再就職もままならない童子は、人生の一発逆転をもくろみ京の都へと旅だっていくのでした。

その後童子は酒呑童子という生涯のダチ公と出会います。二人は意気投合して大江山で暴力団を結成。組長・酒呑童子の懐刀として、茨木童子の名は各方面に知られるところとなったのでした。

そんな茨木童子の宿命的ライバルといえば渡辺綱。彼は源頼光ひきいる四天王の一人で、いわゆる体制側の人です。大江山の鬼たちを指定暴力団とするならば、綱は捜査第四課(マル暴)みたいなもの。この宿敵と茨木童子は時空をこえて何度も何度も対決することになります。謡曲『羅生門』等では羅城門の前で。『平家物語』では安倍晴明のシマである一条戻橋で。『御伽草紙』では酒呑童子が「茨木童子を都にお使いに出したら七条堀河であの渡辺綱とばったり出会ったらしい。京の都マジやべーわ」なんてことを述懐している。二人が戦った時期もばらばらで、酒呑組最盛期のこともあれば、組崩壊後に元構成員の残党狩りをしていた綱と戦うといったシチュエーションもあります。

しかし場所や時間はどうあれ、戦いの趨勢はいずれも同じ。女に化けた茨木童子が油断した綱の髪の毛をひっつかんで攫おうとしたものの、三尺五寸の名剣「髭切」で片腕を切り落とされて退散。その後童子は綱の伯母に化けて渡辺邸を訪問し、ケースに収納されていた腕を回収、破風を破って逃走。綱はたいそう悔しがり、以後渡辺家の建築に破風が取り付けられることはなかったという。といったかんじ。

しかしそれにしても、「女装男子」「血を見て興奮」「酒呑童子と付き合ってる説あり」「欠損系」など、なかなかどうして難解な性癖・属性を持つ鬼ですね。絵巻物だけでなく、薄い本でも活躍出来るポテンシャルを持つ稀有な鬼といえましょう。