水母娘娘

水母娘娘

山西省の水母楼にまつられている萌え偶像。

晋祠村に美しいお嫁さんがおりました。たいそうべっぴんな乙嫁で、まるで森薫の描いた女性キャラクターのようじゃ、あんなに精緻な描きこみでよく締め切りに間に合うものじゃ、などとたいそうな評判でした。

さて、乙嫁さんの暮らす村には井戸も川もなく、毎日何里もの道のりを往復して生活用水を汲みにいくのが彼女の日課でした。嫁が苦労して確保してくれる貴重な水なんだから大事に使えばよいものを、姑のやろうが水を無駄遣いしまくるんですよこれがまた。一日に二度も三度も行水したり、近所の婆どもと流しそうめんを食ったり、意味もなく水を口に含んではぴゅーと吹き出してみたりとやりたい放題。婆は悪びれもせず、「なんつったって、あたしゃ水属性だからね!」みたいな妄言をいけしゃあしゃあと吐きやがるわけ。なんなんだこいつは一体。僕が嫁さんの立場だったら、「お前はもうすぐ墓場に行くんだからむしろ土属性だろう」「スカルミリョーネみたいなツラしやがって」「土のスカルミリョーネっつーか、毒のスカルミリョーネじゃねーか」「かえれかえれ、土に還れ」などと、言葉の暴を以て婆の暴に易うところなんですが、けなげな乙嫁さんはそのような下品な真似はせず、潤んだ瞳に涙をたたえ、ただ黙々と水汲みに励むのでした。

その様子をご覧になっておられた仙人さまは乙嫁をたいそう哀れに思われ、ちょいと浸せば水が増殖するというまほうの木の枝を乙嫁にプレゼントしました。おかげで乙嫁は過酷な水汲み業務から開放された……かと思いきや、例の婆がひみつ道具の存在に目ざとく気づき、おのれの飽くなき水欲を満たそうと木の枝を強奪。婆が木の枝を水がめにざんぶざんぶと浸したところ、水がめから無限に水が噴出して大洪水となり、地球滅亡の危機が訪れました。まったく、姑の分際で世界の平和を脅かすなと言いたい。

そんな地球規模の危機に立ち上がったのは、誰あろう乙嫁です。彼女は自らのおしりを水がめのフタのかわりに用い、身命を賭して大洪水を止めたのでした。かくしてこの世界は一人の可憐な乙嫁のおしりによって救われたのであった。いえーい! おしり万歳!

おはようからおやすみまで他人の嫁を無許可で見つめることを業務とする仙人連絡協議会は彼女の気高き勇気と仙桃より尊いふくよかなおしりをいたく称揚し、彼女を仙人に認定しました。かくして、乙嫁は水がめの上に鎮座する水属性の女仙「水母娘娘(すいぼにゃんにゃん)」に改装され仙人界に着任。今日も今日とて、尊いおしりを水がめからちょいとずらすことで乾いた大地にありがたき慈雨を降らせてくださるのであった。