孕のジャン

孕のジャン

横須賀に現れる元米兵のジゴロ。関係した女性を一発必中で孕ませ、結婚生活を夢みる妊婦をメリケンサックでぶっ飛ばしては出産費用を持ち逃げするという「関東ジゴロ四天王」の一角だぞ。やがて魁ジゴロ塾の塾生となり、「死豪露大四兇殺」ではその悪名を世に轟かせたんだ。必殺技は目にも止まらぬF・P・M・Fだぞ。

というような解説を、名前の語感からなんとなく想像した人もいるんじゃないかと思うけど、あのね、そんなわけがないでしょう。ここは妖怪とか未確認生物をきわめて学術的な見地から紹介・解説するウェッブサイトであり、悪いジゴロや強いジゴロを総覧的に紹介・解説するウェッブサイトではないのですよ。大丈夫ですか。しっかりしてください。

「孕のジャン」が出現するのは横須賀ではなく高知の浦戸湾。しかも高森から孕までの約4キロの範囲にしか現れず、時期はきまって春の夜……といったように出現条件はかなり限定的。

その姿を見たものはなく、こいつが海上を通行するときには「ジャーン、ジャーン」とけたたましい音が鳴り響き、海面が怪しく明滅するのだそうです。こうなるとしばらくは不漁が続くため、これが「おジャンになる」という言葉の語源なのだとか。

この怪異の正体については、地殻変動に伴う地震の前触れ的な現象ではないか、といった説明がなされています。

じっさい孕のあたりには活断層が走っていて、かの寺田寅彦博士も「ある時代、おそらくは宝永地震後、安政地震のころへかけて、この地方の地殻に特殊な歪を生じたために、表層岩石の内部に小規模の地すべりを起こし、従って地鳴りの現象を生じていたのが、近年に至ってその歪が調整されてもはや変動を起こさなくなったのではないか」などといった見事な考察を加えておられるのである。さすが寺田博士である。それにひきかえ、君たちはまったく。なにがジゴロ四天王だよ。なにが死豪露大四兇殺だよ。そういう低次の発想しか出来ない者はこの学術サロンに来なくてよろしい。まったく。なにがフラッシュ・ピストン・マッハ・ファックだよ。ジゴロなんだからそんなに速かったらかえって駄目でしょうが。