溝出

溝出

ある貧乏人が亡くなった時のこと。残された身内もとうぜん貧乏人なわけで、葬式をあげる金もないという貧困スパイラル。貧すれば鈍すとはよく言ったもの。せめて簡素な墓でも建ててやればよいものを、貧乏遺族たちは故人の死体をつづらにつめこんで無課金のフリースペース(道ばた)に投棄してしまいます。今も昔も、えてして貧乏人は無課金が無課金たるゆえを考えようとしない。いやはや、じつに浅はかなものです。

後日。打ち捨てられたつづらが突如ガタガタと鳴動したかと思うと、とつぜん白骨がつづらを破って飛び出し、そして子門真人の「ホネホネ・ロック」もかくやとばかりに皆の前で踊り狂ったのだそうです。これが妖怪「溝出」。こんなにも滑稽で悲しい踊りを、君は見たことがあるかい。

こんな話もあるよ。

鎌倉時代、戸根八郎という武士がいたのだけれど、このおじさんは『北斗の拳』の中ボスみたいなメンタリティの持ち主で、つまり自分の部下の命をなんとも思っていないようなくされ外道だったわけです。ある家来が死んだ時などは、持ち前の冷酷ぶりをいかんなく発揮し、「負櫃」というというつづらライクな物体に死体を詰め込んで海に投げ捨ててしまうのでした。

ところが潮の流れの関係なのか、打ち捨てられた負櫃は元の浜辺へとUターン漂着。しかも櫃の中から異様な歌声が漏れ聴こえるというのでたちまち近隣の噂となり、それを聞きつけた近所の寺の坊さんも見学にやって来ました。坊主が耳を澄ますと、たしかに櫃の中から「♪博物館の恐竜が いっしょに浮かれておどったゼ  ホネホネロック ホネロック」といったかんじの、伸びのあるソウルフルな歌声が聴こえてくるではないか。これには坊主も驚いた。なんとファンキーかつソウルフルなボーカルじゃろうか……坊主はその類まれなる歌唱力にいたく感動し、しばし浜辺で浮かれ踊りました。やがて踊りつかれた坊主が櫃をお寺に持ち帰りねんごろに弔ったところ、以後櫃の中から張りのあるボーカルが聴こえることはなくなったのだとか。なんともったいないことを……まったく、追善供養もよしあしですよね。

いっぽう、暴虐のマッドサムライ・戸根八郎は一体どうなったであろうか。彼はその後、負け戦で敗走しているところを敵に射殺されてしまうのですが、彼の死んだ場所は由井の浦辺。奇しくもそこは、かつて彼が家来・子門真人之助の遺体を遺棄した場所でした。きっとバチが当たったのだね。この記事を読んだおともだちは、部下や後輩が死んでもそのへんに投げ捨てたりしないよう気をつけようね。働き方改革!