新石器時代を目指せ! の巻

新石器時代を目指せ! の巻

僕は4歳のクルピラの子どもと、ヅォン・ドゥーが転生した2歳の子どもを撫育しているのですが、そういったUMAの子どもを撫育していない人と比べて日々の生活にどのような違いが生じうるものでしょうか。それはいろいろあるでしょうけど、今思いつくかぎりにおいて最も異なるであろうこと、それは虫採り業務の有無です。

彼ら幼体は本能にきわめて忠実に生きており、昼夜を問わず虫を欲するわけ。つまり虫を採りに行こうとせがんでは僕にまとわりつき、応じなければ捕虫網の柄で尻を打擲したり、捕虫籠の角で殴りかかってきたりするので大変にこわいわけです。たかが幼児と侮るなかれ。幼児は「攻撃する」という行為に対して一切の躊躇がないので攻撃力がブーストされており、忖度が身に染み付いたそのへんの忖度前提おじさんなどよりはるかに強いんですよね。幼児の攻撃の前では多少の体格差などもはや関係がありません。考えてもみてほしい。現に、かの超人オリンピックV2チャンピオンにして超人界不世出の英雄、キン肉スグルの戦歴に傷をつけ辛酸を嘗めさせた難敵ミキサー大帝を打ち破ったのは、5歳児相当の体躯しか持たないアレキサンドリア・ミートではなかったか。
まあ『キン肉マン』の話は置いておくとして、かくして僕は彼らの暴力を伴う要求に膝を屈し、虫採りというこの世で最も生産性の低い行為に日々従事するはめになったのであった。

しかし、虫を採っていると今までとは視点も視界も変わり、都内にも色々な虫が生息していることに気付かされたりしてけっこう感動するもんですね。
4-5月頃の主たる捕獲対象は蝶類。アゲハチョウやカラスアゲハなんかもうちの近くに生息していることを初めて知りました。あとはカマキリとかバッタとかもね。
梅雨があけるといっときトンボが大量発生し、その後すぐにセミのシーズン到来。はるか樹上で鳴くセミを捕まえるのはミートくん並の身長の子どもたちには難しいものの、セミ採りイージーモード版であるセミの抜け殻集めが楽しめて子どもたちは大喜び。虫かごの中が『聖マッスル』みたいな気色悪さになるまで抜け殻を集めまくるのでした。

虫採りは大人も楽しめるレジャーであるとはいえ、毎日のように虫採りに出掛けるのはなかなか大変で、そこである気づきが生まれます。もしかして、家にグレイトフルかつレアなインセクトが常駐していれば、子どもたちはその虫に気を取られ続け、蝶や蛾みたいなコモンなインセクトをわざわざ毎日捕獲しに行く必要はなくなるのではないか、と。
狩りからの解放。それは言うなれば、狩猟・採集社会から農耕・牧畜社会への移行のようなものです。人類史になぞらえるならば、新石器時代の幕開けです。定住、定住、それはなんと甘美な響きであることか!

かくして6月上旬、僕の計画(オペレーション・ニューストーンエイジ)を実行に移すため実家からカブトムシの幼虫とコクワガタの成虫一匹が輸送されてきました。
そして7月上旬、オス2匹、メス1匹のカブトムシが無事成虫となり我が家に顕現されなすった。そそりたつ角のなんと神々しいことか。まるで高名な仏師が彫りなすった仏像のようではないか……ウルトラありがたいぜ……。僕は嬉しくなってカブトムシさまを伏し拝みました。カブトムシさまのおかげで我が家も狩猟生活が終わり、文明はあらたなステージへと移行するのです。ついに定住社会にランクアップだ! 文明開化だ! 牛鍋百人前食うぞ! ウララー!(嬉しすぎて続く)