油ずまし

油ずまし

むかし熊本の草積越とかいうしょぼい山道を婆と孫が歩いていた時、婆が孫に言うわけですよ。「そういえば、ここらには昔油瓶下げたのが出たそうじゃ」みたいなことをね。そしたら草むらからガサガサと妖怪が出てきて、「今でも出るぞー!」と怒鳴ったんだそうです。とまあ、そういう地味かつオチ弱めなエピソードだけが伝わっている妖怪です。

しかし「草積越には油瓶下げた奴が出たそうじゃ」って言われても、孫的には反応に困ると思うんですがどうでしょうか。「210ばんどうろにはでんきタイプのねずみポケモンであるところのピカチュウが出るそうじゃ」といったポケモン攻略お役立ち情報ならいざ知らず、なんだよ「油瓶下げた奴」って。そんなやつポケモン図鑑に載せたら博士に怒られちゃうよ。せめて「油瓶下げた凶暴な妖怪が出たそうじゃ。なぜ油瓶を持っとるかっつうと……そいつをお前にぶっかけて、表面の皮だけがカラリと揚がった状態にして猛然と食い殺すためじゃー!」みたいな粉飾が婆によってなされていれば、孫的にも「うおー、マジでー!? デストローイ!」といったかんじでやおらテンションも上がろうというものですが、なんか婆の話っぷりだと妖怪なのか変質者なのかすらも判然としないかんじですもんね。油ずましさんの登場の仕方もやはり露出狂とか変質者の登場パターンと大差なく、そのあたりの妖怪としての垢ぬけなさが、その姿を後世にとどめるまでに至らなかった衰亡の一因といえるのではないでしょうか(現在における油ずましのビジュアル・イメージは水木しげる先生によって構築されたものであり、この妖怪本来の姿かたちとはまったく関係がないようです)。