人間蒸発

人間蒸発

「ドキュメンタリー」と聞くと、「おや、報道やジャーナリズムの親戚かな」「パラメータは『かしこさ』重視で『ちから』のような格闘系ステータスは低めなのかな」などと思いがちですが実はさにあらず、ドキュメンタリーこそ「ちから」ステータス全振りの暴力装置になりうることを如実に示す傑作だと思いました。

プライバシーの概念が今ほど浸透していない時代のこととはいえ、根掘り葉掘りの個人情報暴露で出演者にダメージを与えまくる本作。さらにカメラの前の出演者が無意識のうちにキャラクターを演じ始めるという『ゆきゆきて、神軍』的有害事象も発現。最後は虚実の皮膜に絡め取られた出演者たちが路上で大ゲンカして終わるという、スタンフォード監獄実験なみの業の深さです。

平成産のモキュメンタリー『山田孝之の東京都北区赤羽』が昭和の怪作『ゆきゆきて、神軍』の影響下にあることは明らかですが、その『ゆきゆきてー』もまた本作の系譜に連なるわけで、近松門左衛門言うところの「虚実の皮膜」を暴力的に乱打しまくるファイトスタイルをとる作品群の血脈が今後どのような怪作に繋がってゆくものか、大いに興味があります。