ピアノと管弦楽のための組曲「宿命」

ピアノと管弦楽のための組曲「宿命」

漂泊の旅より帰ってまいりました。

日本全国津々浦々、様々なところを巡ってきました。深山の斜面にへばりつく寒村、鈍色の波濤に揉まれる裏日本の寒村、風雪に途絶され鳥すら往来しない北国の寒村など、寒村から寒村を巡る足掛け一年にわたる門付の旅でした。

門付と一口に言っても瞽女、万歳、祭文語り、神楽に獅子舞といろいろありますが、われわれの場合はまず妻がおとない先で三味線を引いて祝唄を歌い、それに合わせて僕が暗黒舞踏をぴくぴく踊り、最後に二歳の息子が軒先で五色の幣を立てた小さな福俵を転がしながら「一つころがしが千両なり、二つころがしが二千両なり」などとやたら縁起の良い祭文を唱えてその家の幸福を祈るというコンボ技であり、僕の暗黒舞踏以外はどの家でもなかなか好評でした。

門付芸が終わると、その家のものが現金もしくはLINE Payで祝儀を出してくれます。祝儀といってもたかがしれていて、『砂の器』の乞食親子のように貧しき旅路ではありましたが、それでも親子三人日々のささやかな幸せを噛み締めながら生をつないでおりました。

しかし、旅の終わりは唐突にやってきました。畏れ多くも藤岡権現さま(金剛蔵王菩薩が藤岡弘、隊長の姿に垂迹されたもの)が夢枕に立ち、僕を指さし「ヒモロギ、肩!」と叫んだのです。無学な皆さんにはなんの事やらわからないと思いますが、藤岡権現研究の第一人者である僕は、たったこれだけの内容から妻が第二子を妊娠していること、しかもその子どもには猿人ジュンマの霊魂が宿っていることをすぐに読み解いたのです。さすが僕です。

われわれは漂白の旅を切り上げ帰京、セレブ産科御三家のひとつである聖路加国際病院に妻を受診させると妊娠が判明、そして今年の6月、第二子純馬が産声をあげたという次第なのでした。

というわけで、次男の純馬が成長するまでは漂白の旅も休業状態、またぞろ日記風を書き継いでゆく所存です。抱負ですか? そうですね、ありもしないことをさも現実に起こったかのように述べ立ててゆきたいですね。