あわら温泉を旅する

あわら温泉を旅する

といっても前回の四万温泉とは違い出張旅行なので、旅情はほとんどないのですが。

夕方には宿にチェックインしてゆるりと温泉につかるはずだったのですが、いろいろあって仕事を終えたのは20時近く。慌ててえちぜん鉄道に飛び乗り、予約していたあわら温泉の宿、青雲閣へと向かいます。

ところで、えちぜん鉄道ではいまだにきっぷ売り場も改札も対人なんですね。東京ではこれらの業務はマシンやメカやヒューマノイドがAutomaticallyに行うようになって久しいので、「フンガー」程度の人語しか喋れない僕はたいへん緊張したのであった。

というか、初めての土地で公共交通機関に乗るときってすんげー緊張しませんか。なんか土地特有のローカルルールがあったりするじゃないですか。電車の場合は最後尾のドアしか開かない駅があったりとか、特急列車の場合はある駅で突然乗客が一斉に立ち上がり椅子をグルリと回転させて向きを変えるルールがあったりとか、バスの場合は前乗りだったり中扉から乗ったりSuicaが使えたり使えなかったりとか、あるいは運転手が「小便すんべ」とつぶやくなりバスを路肩に停めて茂みで立ち小便を始め、乗客の男たちもぞろぞろバスを降りて煙草をふかしだし、嬶たちも茂みに分け入り山菜を採りはじめたりしたとき、自分は果たしてどういう行動を取ればいいのだろう……とか、なにかと悩ましい初見殺しのトラップが潜んでいるわけです。地方の交通機関のローカルルールをまとめたガイドブックみたいなものをぜひ作って頂きたいものですね。

それはさておき。夕飯のバイキングは21:30で終了なので急がなくてはならなかったのですが、電車が遅れたり駅でタクシーがつかまらなかったりと不運が続き、青雲閣についたのは結局21時すぎでした。

フロントのメガネのおばさんはなんだか慇懃無礼でかんじが悪く、「こんな時間に着きくさるとは何を考えているのか。ファック。……と言いたいところだが、まあいい。左を向け。左はわかるか? そう、そっちだ。少しだけ見直したぞ。左に行くとレストランがある。お前は部屋に行かずそのままレストランに向かえ。なぜなら館内に夜食を供する施設はない。レストランでめしを食いそこなったらお前は飢えて死ぬ、分かるか? 飢えて死ぬのはお前の勝手だが、うちの敷地内では死ぬな。迷惑だからな。わかったらレストランへ行け。急げ。走れ。そして速攻でめしをよそって口に詰め込み、ファッキン嚥下して皿を片付け部屋に行きファックして寝ろ、いや、言葉のはずみでファックとか言ったが、お前の部屋にVODとかはない。安いプランだからな。貧乏な自分を呪え。そして入湯税は150円だ。貧乏なお前に払えるかどうかは知らんが、お前にも一応納税の義務はある。払わないなら殺す。なに、朝の送迎バス? そんなものはすでに予約で満席だ。お前が遅く着いたのが悪い。駅に向かう他の方法はない。知ったことではない。死ね。敷地外で死ね。ファッキン死ね」……といったことはもちろんまったく言われていないのですが、何故かそういうことを言われたかのような気分にさせられたものでした。まあ、恐らく彼女の挙動一切が僕には生理的にあわなかったのでしょう。

しかし彼女の言うことももっともなので、言われたとおりレストランに駆け込み、言われたとおり目についた食べ物を口に詰め込みました。バイキングの品数や内容は料金以上なかんじで満足しました。いつもは取り放題のバイキングとはいえ周囲の客に気を遣って少量ずつよそってしまう小市民なのですが、このとき他の客はすでに食事を終え歓談モードとなっていたため、大皿に盛られた刺身をすべて取る、といった豪快な食べ方ができて楽しかったです。

食事を終え、ようやく部屋に入ってテレビをつけると『カメラを止めるな!』を放送していて、前半のもどかしいパートが終わるぐらいのところでした。そのままずるずると最後まで観て、23時過ぎに大浴場へ。露天風呂が貸し切り状態でなかなか快適。

湯上り後、館内を散策。

温泉施設のゲームコーナーというのはわれわれ幸薄きロスジェネ世代の子供時代における幸福な心象風景のひとつなので、ホテル・旅館各位はどうぞこれからも維持に努めて頂けると嬉しいです。

この宿には「昭和なつかしのテレビゲームコーナー」として、スーファミのゲームスペースまで完備(スーファミは平成のゲーム機ですが)。

ミニスーパーファミコンの他にリアルスーファミまで置いてあって、『弟切草』や『クロノ・トリガー』などがプレイ可能でした。遊びたかったけど、いつ行ってもだいたい誰かがプレイしていました。『弟切草』やりたかったな……。

24時間開いているマンガコーナーもあったのですが、僕は『ブルーピリオド』の新刊を読みたかったので、部屋に戻ってKindle版ブルーピリオドを読み、満足して寝ました。

翌朝は朝風呂に入ってから朝食バイキングへ。この宿はバイキング関係のパラメータにポイントを多く振っているのか、なかなか良かったです。好みのお茶漬けを作れるコーナーは、他ではありそうであまりないような気がしました。

昨夜のフロントのおばさんからは何ひとつ説明がなかったのですが、宿を通してタクシーを呼ぶと料金が安くなることを部屋に置かれていたパンフで知り、タクシーを呼んで駅へと向かい、特に観光せずに帰京しました。永平寺とか行きたかったんだけどね。了!