錬金の果

錬金の果
無から鉱物、特に黄金を生成するのは古来より錬金術師の悲願でした。数多のアルケミストが追い求めた夢、錬金。このたび僕はその偉大なる到達点に至る一里塚、シュウ酸カルシウム結石の生成に成功したので報告いたします。
(要約:尿管結石になった) 無に近いところから鉱物を生成するという禁断の術式なので、錬金術師も結石使いも錬成に際してそれ相応の代償を支払うことになります。いわゆる等価交換というやつですね。シュウ酸カルシウム結石の生成の際、それと等価交換されるのは悶絶するほどの苦しみ。超しんどかったです。深夜2時を回ったころから脇腹の痛みが耐え難いレベルになり、タクシーで夜間救急外来へ。尿検査、血液検査、CT、腹部X線検査をお作法的に行い、そこでようやく結石っすね、と診断してもらいやっと薬を処方されました。しかし薬を飲んでも地獄の苦しみは朝方まで続き、救急外来のリカバリーベッドのうえで転げ回りながら、搬送されてきた認知症の老婆の被害妄想的な繰り言、生保の常連泥酔者の受け入れを断固として断りたい病院側と救急隊の攻防、などといった気が滅入る雑音を聴き続けなければならないという、それはそれは辛い夜を過ごしたのでした。 その後、冷静になって尿管結石になった理由を考えてみました。 僕は医学関係の仕事に従事していることもあり、世間の人がうっかり騙されがちな疑似科学、民間療法、ワクチン忌避や抗がん剤忌避のようなほぼデマに等しい医療知識、そういった類にはそうそう引っかからないと自負していました。 そんななか、体重の増加が気になってきたことから、津川友介氏による『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』を参考に、今までの食生活を見直すことにしました。この本は全ての主張の下敷きに大規模臨床試験によるまっとうなエビデンスがあり、牽強付会や強引な理論がいっさいない、実に信用に足る内容といえます。
で、この本には「身体に良いと太鼓判を押せる食べ物はナッツ、魚、オリーブオイル、玄米」みたいなことが書いてあったので、津川博士の意見とエビデンスに従い、ここ半年くらいは朝食メニューを
  • 玄米ブラン
  • ミックスナッツ
  • 煮干し
のみとし、ひたすらそればかりを食べ続けていました。
しかし結石になったあとで色々調べてみると、結石の原因となるシュウ酸をナッツや玄米は大量に含んでおり、また煮干しをそのまま食うとプリン体が多すぎて尿酸値があがるため、これまた結石の要因となるものでした。よかれと思って取り入れた食事のすべてが結石の生成に一役買っていました。 要するに、極端すぎたのです。 津川博士はナッツが健康に良いと言ってはいるけれど、毎日毎日、満腹中枢を破壊されたリスみたいにひたすら食えとは一言も言っていないし、魚が健康に良いと言ってはいるけれど、朝一で煮干しを何匹もまるごと食って体内でおだしを生成せよ、みたいなことはやはり一言も言っていない。加減をわきまえないと薬すら毒になるということなんですね。僕はまちがっていた。以後気をつけます。それでは君たちも、僕や片岡鶴太郎のような極端な健康生活をうっかり送らないよう気をつけようね。死ぬほど苦しいからね。