スティング

スティング

フッカーとゴンドーフの年の差詐偽コンビは友人の仇をうつべく、こわもてマフィアのロネガンに一世一代のハッタリ詐偽をかまそうとするのだが……といったかんじのアカデミー賞受賞作。脚本・俳優・音楽すべてが素晴らしいという稀有な作品。復讐譚のくせして実に爽やかに終わる話の締め方も大好き。中盤の賭けポーカーのくだりは『ジョジョ』のダービー戦でもトレースされるほどの秀逸さ。ほんとうにもう、この映画はどこをとっても素晴らしいです。もしも歴代傑作映画から十一作選んでサッカーのドリームチームを編成するとするなら、この映画は常にレギュラー選出確定、ポジションはトップ下のMFですね。チームの頭脳にして蜂の一刺しを演出する司令塔です。ちなみにFWのツートップは『ゾンビ』と『燃えよドラゴン』ですけどね。ちなみに日本人選手を入れるとしたら、ボランチに『用心棒』か『椿三十郎』あたりですけどね。さらにちなみに、GKは安定感のある『ゴッドファーザー』あたりに任せておけば安心ですけどね!

本作でもっとも有名なのは終盤の鮮やかなどんでん返し。初見の人は誰もがびっくりすることと思います。僕などは致命的に記憶力が悪いものだから、今まで4回くらい本作を見ていますが、そのつど話をすっかり忘れているので観るたび新鮮な気持ちでびっくりしている始末。あんなに鮮やかなラストを、どうしてきれいさっぱり忘れ去ることが出来るのか自分でも不思議ですが、永遠に『スティング』を楽しみ続けるために神がわたくしにあたえたもうた能力なのかもしれませんね。うふふ、なんてすてきな神さまからの贈り物なのかしら!

なんつったりなんかして、だとしたら神さまというのはじつにひどいやつです。あほです。この病的な忘れっぽさのせいで僕がどんだけ苦労してきたことか。まったく人の顔を覚えられず同じ人に三回も「あ、ども、はじめまして」なんつって名刺を渡してしまったり、スーパーに買い物に行くたび何を買いに来たのか忘却し「ううむ、とりあえずボディシャンプーあたりを買っておけば間違いはあるまい」などという根拠不明な打開策のせいで我が家には未使用のボディシャンプーが何本もあったり、あろうことか自分の名前がいまいちうまく思い出せず就職試験の面接官に本気で心配されちゃったりしてきたわけで、デメリットがでかすぎるのだ。会社のパソコンまわりには、忘れ物防止のポストイットを放射状にアホほど貼ってるせいで遠くからデスクを見るとまるでモルボルみたいで気持ち悪く、きっと僕じしんも気持ち悪がられているにちがいないよ。まったく神はなんということをしやがる。スティングはたしかに面白いけれど一回楽しめば充分だろう。そんなことより神はおれの人生本体についてもうちょっと便宜をはかれというのだ。神は菓子折り持参で僕のところまで来て、正座しながら僕の説教を聞くべきである。まったく、ふざけるなというのだ。

という怒りも、あと三十分くらいするときれいさっぱり忘れて、観たことのある『ファイナル・デスティネーション』かなんかを再鑑賞して、「わっ、わっ、この映画の結末は、いったい、ど、ど、どうなってしまうのだろうか!」などと昂奮していたりするわけですからにして、僕の怒りが神に届くことは永遠にあるまい。